2014/02/06

気持ちの良い仕事を。

【とても長い記事になってしまったのでお気を付けください】

2月4日に、外国特派員協会というところで、建築家の槇文彦さんが
会見をした、というニュースの内容を読みました。

新国立競技場の維持コストは都民の税金で負担!? 世界的な建築家槇文彦氏 外国特派員協会で会見 [ Independent Web Journal ]

会見はすべて英語で行われた、とのこと。
会見の動画もありましたが、英語を正確に聞き取る自信はないので
基本的に先述 IWJ の記事を参考にしています。

内容は、2020年東京オリンピックのために建てられる予定の
新国立競技場について。

公式HPから拝借した画像です








まず槇文彦さんですが、ものすごく有名な建築家です。
私が学生の頃、既に日本を代表する建築家として教科書に出てました。

建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を、日本人で2番目、
ひいてはアジアで2番目に受賞した人。
ちなみに1番目は丹下健三さん、東京都庁を設計した人です。
その丹下さんと槇さんは日本のモダニズム建築家として、
知らないでは済まされない存在、と学校でも教えられました。

その槇文彦さんに偉そうな提言などとてもできないので
(そもそも東京オリンピックに対しても思うところは
 私にもいろいろあるわけですが)書きません。

でも槇さんの会見で、一部あきらかに間違っていて
気持ちの良くない言葉があったので、そこだけは自戒のためにも
書いておきたいと思い立ちました。

記事中盤に
【新競技場は建築ではなく、ただの「土木計画」】
という目次があり、
「寿司を見た目で判断するのは良いが、建築物はそういうものではない」
「新国立競技場は、ビルでも何でもなく、ただの巨大な『土木計画』だ」
という記述があります。
これが、本当に槇さんの発言として正確なのであれば、
あまり気持ちのよいものではないです。

(お断りしておきますが、先述の通り私は会見の英語を正確に
 翻訳できないので、記事に頼っているという前提はあるので
 不公平なのは自覚しています)

これは、寿司や土木を見下しているようにしか聞こえない。

お寿司屋さんだって、見た目さえ良ければ他はどうでもよいなんて
絶対に思ってない。寿司に限らず、すべての料理に言えることで、
素材の吟味、細かな技術、衛生観念とホスピタリティが合わさって
できあがる本物のおもてなしが、良い飲食店さんにはあります。

『ただの巨大な土木計画』という言い方は、仕事が雑、というニュアンスを
含めたかったのかもしれませんが、土木の仕事は雑ではない。
道路や橋から住宅地の区画に至るまで、ミリ単位とまでは言わないまでも
現場ではけっこう精密に仕事をしますし、
あとは施工者の志(と経済事情)によって感心する職人芸を発揮します。

寿司屋も土木屋も、いい職人と悪い職人がいるだろう、と
特に建築家(自称のほうが多いが)は反論しそうですが、
建築も、設計の分野に限ったって、ひどい仕事は存在します。
それこそ言い出せばキリがないほどです。

そういえば以前、某有名漫画家が「作家の作品は未来に残るが、
そばやうどんは私にだって作れる」と発言した記事を読みました。
著作権保護期間の延長についての議論かなんかで、
蕎麦屋やうどん屋は職人の死後、家族には何の保証もないのに
なぜ漫画家などの作家だけが手厚い保護をうけるのか、という
問いに対しての反論だそうです。

私は『おまえが茹でた蕎麦に金なんか出すか!』と声に出して
記事に突っ込みを入れましたが、多くの人がそう思ったようです。

とかく、クリエーター(この言葉も私は吐き気がするほど嫌い)は
自分(たち)だけが高尚な仕事をしているとでも言いたげな
馬鹿げた勘違いをしがちです。

クリエイティブな仕事、というのは、
『デザイナー・各種の作家・建築家などの職種の人がやること』
ではない。職種で決まることではない。

テレビや雑誌を見ていて、何も伝わらない、唖然とするような
酷い出来のCM・広告をときどき目にしますが、
あれもその分野の“デザイナー”が作っています。

くだらない小説や漫画やアート気取りでなんだかわからない作品、
住み心地を完全に無視した見た目だけの住宅、などなどぜんぶ、
クリエイターを自称するひとたちが作っているけど、
クリエイティブな仕事をしていない人をクリエイターとは呼ばない。

creative とは創造的、ということで、
創造とは新しいものや価値のあるものを作り出す、ということです。

私の知っているお蕎麦屋さんは、毎日打つ蕎麦の、粉や水の配合、
ゆで時間などを微妙に変えているそうです。
その日の天気、気温、湿度で蕎麦も変わるし、食べる人の味覚も
影響を受けるから、毎日同じレシピを忠実に作るのではなく、
毎日同じ味と思ってもらえる蕎麦を創るのだ、と。
あるパン屋さんも同じようなことを言い、毎日繰り返しています。

この仕事がクリエイティブでなくてなんだというのか!
食べた人が感動して繰り返し必要とする。
その蕎麦一杯、パンひとつで元気を出せることも
間違いなくある、そういう力と価値を持っている仕事です。

彼らは一般的にクリエイターとは呼ばれないけど、その仕事は
とても創造的で、見ていて気持ちが良い。
そしてそういう人ほど、分野が同じでも違っても、他人の仕事に
興味津々で勉強熱心で、敬意を払います。
最近STAP細胞が話題ですが、iPS細胞を開発した山中さんも
好奇心旺盛で穏やかで、素敵なお人柄だそうです。

クリエイティブな仕事はどの業界にも存在するし、
それらは概して気持ちが良いものです。

設計図は、職人さんが作ってくれるまではただの紙です。
職人さんが建てる土地は、誰かが拓いて整地してくれた土地です。
私は設計者であり、ひとりでは何も完成させられない。
私の関わる仕事は、職人さんや監督さん、お客様に近隣の方、
もとをただせばその土地を拓いた人にまで遡って、
力を借りて全うさせるものです。
それは建築家の考え方ではない、と言われたことがありますが、
ならば私は建築家でなくて良い。

私だけが誰かより偉いことはなく、皆と共に仕事をしていく。
土木の仕事をしている方々に、教えて頂くことは多々あれど
建築より下の仕事、なんて一度たりとも思ったことはありません。
人それぞれ、大事にするものはずいぶん違う、ということなのかな。

最近、こんなようなことを話す機会が続いて、
柄にもなく記事にしてしまいました。
違う考えをお持ちの方には、お付き合いをさせてしまって
申し訳ないことです。