2015/12/30

笑って



Kさんの顔は、笑顔しか思い出せない。

垂れ目で下がり眉の、笑い顔の美人で、竹を割ったような性格だった。
初めてお会いしたころ、60歳にはまだ間があったはずだ。
髪をきれいな色に染め、いつ見てもおしゃれで姿勢が良く、
いつも機敏で快活で、雰囲気はどう見ても私より年下のようだった。

何年か前、年賀状展の打ち合わせを終えて、皆で食事に行こう、と
Kさんが言い出して、Kさんが今日はどうしてもそこへ行きたい! という店に
勇んで歩いて行ったことがあった。

15分ほど歩いて着いた店の前には、定休日の看板。

「なんで定休日確認しないかなーもうっ!」と何度も言って、
涙が出るまで笑って、悔しがっていた。
私たちにも、その笑いが伝染してしまって、ハタから見たら変な人たちだったろう。

「ここのカレーほんとにおいしいんだから!
 きっとまた来よう、ねっ!…くっそー、定休日かー…」と、
泣き笑いに何度も何度も言っていた姿も、食べ盛りの高校生のようだった。



Kさんのお別れ会の日は、真夏日だった。

眩しい日差しが差し込むギャラリーに飾られていたKさん自身の写真は、
どれもニコニコしていて、本当に笑顔の絶えない人だったのだな、と思った。
ギャラリーに長い時間いるときも、いつも面白い話ばかりして、
そこにいる皆が大笑いばかりしていた。

当時たばこを吸っていた私の姿を見て、目を丸くして
「似合わないねー!」と言っていたときのKさんも、きれいな笑顔だった。
たばこを減らし、やめるに至るきっかけも、その笑顔だったと思う。

知り合ったはじめの頃、あまり笑わない私をKさんは本気で心配していた。
「可笑しいなら笑ってよーもうっ」と笑いながら言われたことも思い出した。

ただただ眩しい笑顔の写真を見ていられなくなって、
友人の食事の誘いも断ってギャラリーを出た。

それから、ついにKさんとは一緒に行くことのできなかった店に初めて入って、
カレーを頼み、最後にビールを一杯だけ飲んで、帰った。

その夜も、暑かった。