Kさんの顔は、笑顔しか思い出せない。
垂れ目で下がり眉の、笑い顔の美人で、竹を割ったような性格だった。
初めてお会いしたころ、60歳にはまだ間があったはずだ。
髪をきれいな色に染め、いつ見てもおしゃれで姿勢が良く、
いつも機敏で快活で、雰囲気はどう見ても私より年下のようだった。
何年か前、年賀状展の打ち合わせを終えて、皆で食事に行こう、と
Kさんが言い出して、Kさんが今日はどうしてもそこへ行きたい! という店に
勇んで歩いて行ったことがあった。
15分ほど歩いて着いた店の前には、定休日の看板。
「なんで定休日確認しないかなーもうっ!」と何度も言って、
涙が出るまで笑って、悔しがっていた。
私たちにも、その笑いが伝染してしまって、
ハタから見たら変な人たちだったろう。
「ここのカレーほんとにおいしいんだから!
きっとまた来よう、ねっ!…くっそー、定休日かー…」と、
泣き笑いに何度も何度も言っていた姿も、食べ盛りの高校生のようだった。
Kさんのお別れ会の日は、真夏日だった。
眩しい日差しが差し込むギャラリーに飾られていたKさん自身の写真は、
どれもニコニコしていて、本当に笑顔の絶えない人だったのだな、と思った。
ギャラリーに長い時間いるときも、いつも面白い話ばかりして、
そこにいる皆が大笑いばかりしていた。
当時たばこを吸っていた私の姿を見て、目を丸くして
「似合わないねー!」と言っていたときのKさんも、きれいな笑顔だった。
たばこを減らし、やめるに至るきっかけも、その笑顔だったと思う。
知り合ったはじめの頃、あまり笑わない私をKさんは本気で心配していた。
「可笑しいなら笑ってよーもうっ」と笑いながら言われたことも思い出した。
ただただ眩しい笑顔の写真を見ていられなくなって、
友人の食事の誘いも断ってギャラリーを出た。
それから、ついにKさんとは一緒に行くことのできなかった店に初めて入って、
カレーを頼み、最後にビールを一杯だけ飲んで、帰った。
その夜も、暑かった。