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2021/06/16

どこに住みたいのか【ウェブ茶話会(仮) 8 】

Q.良い土地はどう選べばよい?













A.人は地面に住むわけではなく、家に住むのです。

実家が元農家で空いている土地がある、とか、
先祖代々の地主などの理由で土地があるのでない限り、
家を建てるにはまず土地を手に入れなくてはなりません。

通常は不動産業者の広告を見て探すことが多いと思いますが、
「この中のどの物件が良いのか」としばしば聞かれます。
率直に言って、広告・情報の中から“良い土地”を選ぶのは
非常に難しいと思います。

インターネットで探すと、不動産業者さんが匿名で書いた
ブログなどがたくさんありますが、一様に記されているのは、
本当にいい条件の案件は公開しない、ということです。
自分の顧客か仲間内に紹介するうちにさっさと買い手が付くそうです。

これを不誠実と責めるのは酷というものでしょう。
彼らも商売ですから、言い値で買ってくれるならともかく、
一円でも安くしようと値切る気満々で血眼になっている
一見さん、かつ取引も一回きりとわかりきった相手に対して、
良い条件の土地を出す気はないでしょうし義理もありません。
「あなたのために最高の土地を、利益度外視の格安価格で提供します!」
などと言う業者がいたら、むしろ詐欺を疑うべきです。

その前に私のほうからも問いたいのですが、
“良い土地”ってなんでしょう。
間取りの考え方のときにも書きましたが、自分の望むことが
なんであるかがはっきりしないうちは、どこが良い土地かも
わからないはずではないでしょうか。

古い中心市街地で、買い物や通勤の利便性が良い土地。
新興住宅地で区画がすっきりして、同じ世代の人が多く住む土地。
すこし離れて、視界が広々として隣近所が気にならない土地。
人によって、良いと思う場所は違います。
ご家族間でも価値観が違う場合はあるでしょう。
もっと言えば、人生の時期によっても
自分と家族にとって最良の場所は変わりうると思います。

最近よく聞くのは、歳をとって健康に自信がなくなったから
病院に行きやすい街中に住みたい、という希望です。
岩手の冬はとくに、雪が積もったり路面も凍ったりして
救急車が来るのに時間が長くかかり、不安になった、と。
確かに、各科の開業医さんにかかりつけになってもらい、
その全てが比較的近所にあれば安心感も違います。
子どもが小さいうちはのびのび育てたい、と郊外を選んでも、
将来は事情が変わる可能性はとても高い。

未来のことはわからないのだから所有のリスクを避けて
賃貸住宅に住むべきである、と言い切る人もいますが、
それはそれで疑問です。

自分が死ぬまでの数十年間、その賃貸住宅が
存続するのかどうかは大家さん次第です。
賃貸住宅が数十年もの長い期間、不具合もなく健在かどうか
保証もありませんし、そもそも賃貸住宅の断熱性能は概して低い。
賃貸経営も事業である以上、大家さんにとって建築工事費は
すべて、単なるコストに過ぎないからです。

そうやって、いま借りている家が住めなくなったとき、
自分が高齢者だったら。
若い人と同じ条件では部屋や家を借りられないケースも、
社会全体の高齢化とともに急増しています。
仮に住み続けることは可能だったとしても、
高齢者の孤独死もすでに問題だし、もし要介護になったときに
賃貸住宅で対応できるのか、という問題もあります。



死ぬ寸前まで収入が変わらず、健康状態を問題なく維持し、
結婚している状態で離婚も死別もなく孤独ではない、という
完璧な条件下で未来を想定しても、無意味だと思うのです。

持ち家でそれらの難題が解消されるわけではありませんが、
少なくとも対処法は考えられます。

介護まで見据えて可変性を持たせるか、
または改修の余裕のある間取りにすること。
堅固な構造、高い断熱性能、更新の容易な設備計画の家にして
地震や経年劣化に対抗し、数十年後にも充分快適な家にすること。
これらは、必ずしも大きな家でなくても実現できます。
そうすれば、無理のない費用の範囲で最大限実現して、
ローン支払い等の経済負担を抑えることも可能になります。

こういう家だと、ある程度の郊外でも、築年数が経っても、
多少の手入れで住める家として売却がしやすくなってきます。
需要が絶えることは考えづらいし、売るのは自分の家一軒だけ。
不動産業者さんと違って、何軒も売りさばく必要はないのだから、
買ってくれる家族ひと組と出会えればいいのです。
自分が高齢者になった時に、市街地に移住するにせよ
施設に入るにせよ、選択肢が増えやすいのではないでしょうか。

結局、土地だけを見て良し悪しは決められない、
というのが私の意見。
上述のように、そこにどんな家を建てるかで未来における
土地の価値は大きく変わってくるからです。
私が設計者だからそう思うのではなく、逆です。
家次第で未来は変わると思ったから、設計の仕事をしています。

最後にひとつ、絶対に最良の土地など誰にもわかりませんが、
絶対に選んではいけない土地はあります。
水害、土砂災害などの被害が、現時点で既に想定されている土地。
これは避けるべきです。
最低限、自治体のハザードマップは確認しましょう。
わざわざリスクの上に家を建てることに、合理性はありません。